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赤シャリと白シャリの違いは?江戸前寿司の歴史とあわせて解説

こんにちは、ポケットコンシェルジュ編集部です。
「この寿司ネタが好き」という方は多いと思いますが、ネタだけではなくシャリにも種類があるのをご存知ですか?今回は、赤シャリと白シャリの違い、そして赤シャリのルーツとなった江戸前寿司について紹介したいと思います。

Index
1.一般的な寿司は「白シャリ」
2.江戸前寿司の伝統をつなぐ「赤シャリ」
3.赤シャリと白シャリ、それぞれに合う寿司ネタ

一般的な寿司は「白シャリ」

シャリとは、寿司ネタの土台となる酢飯のことです。シャリにはネタの味を引き立てる役割があり、寿司店ごとにこだわりを持ってつくられています。シャリに使われる酢は1種類のものや、2種類以上を合わせたものなど様々です。どの割合でどの酢を使うかは寿司店ごとに異なり、シャリだけでも甘みや酸味の調整が必要なのです。

一般的な寿司店では、シャリに”米を醸造してつくる白酢”を使っています。白酢と米を混ぜ合わせてつくったシャリを白シャリと呼びます。最近では白酢を混ぜ合わせるだけではなく、米を炊く際に昆布などで出汁の風味をくわえる職人もおり、シャリだけとっても寿司店ごとの味の違いを楽しめます。

鮨 ふじ田

東銀座駅から徒歩3分ほどの場所にある隠れ家的な鮨店『鮨 ふじ田』。握りの酢飯は2種類を使い分け、それぞれの魚に寄り添う巧みな味わいに仕上げる。生地からしっかりと時間をかけて焼き上げるという玉子焼きは、ぜひとも食していただきたい逸品だ。大将は、都内の鮨店で多く経験を積み、恵比寿ウェスティンホテルで鮨料理長を務めたほどの逸材である。

 

江戸前寿司の伝統をつなぐ「赤シャリ」

一方、江戸前寿司の伝統的なシャリの形式として、赤シャリにこだわる寿司店もあります。赤シャリは白酢ではなく、赤酢と米を混ぜ合わせてつくったシャリのことです。赤酢は酒粕を醸造させたもので、米を醸造させた白酢よりも香りが強く、まろやかな味わいがあります。酒粕にふくまれる栄養素によって酢が褐色に変化しており、赤酢をもちいた赤シャリは名前の通り、シャリに薄く赤い色がつくのが特徴です。

いまでは取り扱っている寿司店が少なくなった赤シャリですが、江戸時代に江戸前寿司が流行り始めた頃にはとても一般的なものでした。江戸前寿司の意味は様々な定義がありますが、もともとは東京湾で取れた魚(江戸前)をつかった寿司のことです。江戸前寿司を完成されたとされる江戸時代の寿司職人・華屋与兵衛(はなやよへい)も、シャリに赤酢をつかっていました。

江戸時代、多くの寿司店は今でいう屋台のような形式で営業されていました。提供方法も現在のように目の前で寿司を握るのではなく、木箱に並べられた作り置きの中から好きなものを選ぶ形式でした。魚を酢飯の上に乗せる「握りずし」の形式は変わりませんが、大きさは今の2倍~3倍のサイズだったそうです。現代だと、立ち食いそば屋をイメージすると分かりやすいかもしれません。

江戸時代は今のように魚の冷蔵技術がないため、野外で生魚を提供するのは大変です。そこで、魚を火で焼いたり、酢や塩で締めたり、煮たりと様々な技法が発展していきました。寿司ネタと同様にシャリに関しても、乾燥や傷みを防ぐための方法として、酢を混ぜるようになりました。酢には寿司ネタの劣化を防ぎつつ、ネタや米の味を高める意味があります。

鮨 まるふく

都内でも食通が集まる場所として知られている「西荻窪」エリア。個性的な飲食店がしのぎを削る中、独自に研究を重ねた熟成鮨で差別化をはかり人気を集めているのが『鮨 まるふく』。酢飯は秋田産と新潟産の2種類の米を合わせ、赤酢をベースに4種類をブレンドしている。唎酒師の資格を持つ女将が相性の良い日本酒を提案してくれるのも『鮨 まるふく』の楽しみの一つだ。

 

赤シャリと白シャリ、それぞれに合う寿司ネタ

これまで説明した通り、伝統的な江戸前寿司のネタは赤シャリとの相性が良いです。江戸時代の東京湾は埋め立てが進んだ現在よりも、面積が広く漁獲量も多かったとされています。東京湾では、鮃(ひらめ)などの白身魚から、小鰭(こはだ)などの青魚、鮪(まぐろ)や穴子までバラエティ豊かな魚介がとれました。

以下、江戸前寿司の代表的なネタをいくつか紹介します。

江戸前寿司の主役「鮪(まぐろ)」
鮪(まぐろ)は、江戸前寿司の主役といえるネタです。昔から良い鮪(まぐろ)を出せることは寿司店の格を決める要素であり、「良い鮪(まぐろ)がない日は暖簾を出さない」という店があったとされるほど、こだわりの強いネタだったといわれています。

意外なことに、マグロはもともと生で食べる機会がほとんどありませんでした。昔は冷蔵庫などの冷蔵技術がないため、生で食べることができるのは漁港の近くにある一部の寿司店のみで、大部分の寿司店に届くころには生で食べられる鮮度ではなくなっていたのです。では当時、どのようにして鮪(まぐろ)を食べていたのでしょうか。

答えは醤油・みりん・酒などを混ぜたタレに漬け込んだ「づけ」です。漬け鮪(まぐろ)が江戸前寿司の主流であり、現在でも江戸前寿司のお店でよく提供されています。

最初に食べるのがおすすめの鮃(ひらめ)
白身の中でも、鮃(ひらめ)の昆布締めは特に赤シャリとの相性が良いとされています。昆布を挟んで風味をつけた昆布締めは、食材の劣化を防ぎながら、ネタの美味しさを引き出す技法です。白身魚ならではの淡白な味わいを楽しむために、最初の寿司ネタとして頼むのをおすすめします。

噛むほどに味わいが広がる蛤(はまぐり)
「煮物」を代表するネタとして、蛤(はまぐり)もおすすめです。江戸時代に東京湾で蛤(はまぐり)が大量にとれたため、寿司ネタとしても身近になりました、蛤(はまぐり)は煮すぎると風味を損ない、硬くなってしまうため職人の腕がよくあらわれるネタです。

紅白が鮮やかな車海老(くるまえび)
車海老(くるまえび)は、江戸前の伝統的な寿司ネタです。伊勢海老(いせえび)と並ぶ高級海老ですが、生でも茹でても美味しいです。見た目としても鮮やかな紅白の模様が美しいネタです。

江戸前には欠かせない小鰭(こはだ)
酢で締められた小鰭(こはだ)は、江戸前寿司には欠かせない寿司ネタです。小骨の下処理たにも時間がかかるため、職人の腕とこだわりがはっきりとあらわれます。そのため、「小鰭(こはだ)を食べれば、その店の力がわかる」ともいわれています。

こだわりの伝統ネタ穴子(あなご)
調理方法のレパートリーが多い穴子(あなご)は、職人の色がでる強くでる寿司ネタです。煮たり、焼いたりと調理の手法も多いうえに、塩・わさび・タレなど味付けにも広がりがあります。仕入れの段階からこだわり職人も多く、それぞれの職人が自分の調理法にあった穴子を探しています。

甘くて柔らかい玉子焼き
玉子焼きは子供から大人まで人気のある寿司ネタです。江戸前寿司の玉子焼きは、現在では一般的な出汁巻きではなく、魚や海老のすり身をつかって仕上げることが多いです。

「鞍掛け」と呼ばれる形も特徴的です。鞍掛けは、約5センチ角に切った玉子の中央に切り込みを入れ、ふたつに折って山伏に開く形式です。中に入るシャリは少なめなので、玉子焼きの味がより楽しめます。

 

おわりに

前述の通り、現在では多くのお店で白シャリをもちいているため、一般的にはどのネタも白シャリをもちいたものが多いです。そのため白シャリに合わないネタというのは特にないです。ただ最近では、変化をつけるためにネタごとに赤シャリと白シャリを使い分けている寿司店もあります。

いかがだったでしょうか。なかなか馴染みのない「赤シャリ」ですが、この機会にぜひ本格的な江戸前寿司のお店を訪れていただけると幸いです。

西麻布 鮨いち

大将の佐藤氏は、銀座『勘八 本店』や六本木『すし屋のいけ勘』、そして恵比寿『鮨 竹半 若槻』などにて計16年修業し、2015年10月に『西麻布 鮨いち』をオープン。鮨の核となる酢飯は、赤酢と米酢のものを2種用意し、鮨ダネとなる魚介類の味わいに合わせて使い分ける。東京には鮨屋が3,000件以上はあると言われている現代にも、『西麻布 鮨いち』でしか食べられない一貫を提供する。