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「日本の食文化を世界に発信していく」。そんなポケットコンシェルジュのビジョンから始まったインタビュー特集です。日本で活躍する一流レストランのシェフを取材し、レストランに対する思いや、料理人としての考え方などを紹介していきます。 |
第五回
『鮨 真』鈴木 真太郎氏
食通が集まる街、東京・西麻布で、国内外のグルマンから人気を集めている『鮨 真』。店主・鈴木真太郎氏のセンスが光るつまみや鮨の評判は高く、ミシュランが日本に上陸した初年度から、10年連続一つ星を獲得し続けている。いわゆる有名鮨店の出身ではないにもかかわらず、独自の感覚やインスピレーションから生み出された江戸前鮨は、なぜ人々を惹きつけるのか。その魅力に迫るべく、鈴木氏の鮨に対する考え方や味づくりの工夫などについて語っていただいた。
Pick up topics |
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1. 地元の鮨屋で15年の修業から一転、美食の街・西麻布で独立 |
2. 国内で数百軒もの鮨屋を食べ歩き、理想の店づくりを追求 |
3. シンプルな中に新しさを表現した、伝統的な江戸前鮨の伝承 |
地元の鮨屋で15年の修業から一転、美食の街・西麻布で独立
――― 鮨職人になりたいと思ったきっかけはなんですか?
私は小学生のころから、とにかく鮨を食べることが好きだったんです。私の地元は東京の世田谷なんですが、外食と言えば近所の鮨屋でした。なので、中学生のころには「毎日、鮨を食べる生活がしたい」と思い、鮨屋で働こうと考えていました。そこで、高校に入ってから、地元の『小かん鮨(こかんずし)』という店で3年間アルバイトをして、そこから社員として11年修業させていただきました。
――― その後は、都心で有名な鮨屋などで修業されたんですか?
都心の高級店はどのようなものなのかを見てみたいと思っていたので、当時有名だったホテルの中にある鮨屋で3ヶ月ほど研修はしました。ただ、いろいろと勉強になる部分はありましたが、諸事情により辞めることになかったんですね。なので、また世田谷に戻り『寿矢(としや)』という店で2年ほど修業させていただき、そのあと独立しました。
――― 世田谷とは客層や客単価も違う西麻布という立地での独立かと思いますが、なぜ都心を選ばれたんですか?
『寿矢』で修行していたころのお客様の知人に不動産関係の方がいらっしゃって、ご縁があってご紹介いただいたからですね。確かにそれまで高単価の商売というものを経験したことがなかったので不安はありました。ただ、私がやりたい鮨屋は、より質の高い魚を使っていきたいという想いがあったので、結果的に、ある程度単価の高い商売ができる西麻布という立地の選択は正しかったと思います。
国内で数百軒もの鮨屋を食べ歩き、自身の店づくりを追求
――― かなりの数の鮨屋に食べに行かれていると伺っていますが、いままでにどのぐらい回られたのですか?
検討もつかないですね。地方に行ったら食べますし、都内でも人から良い店の話を聞けば、勉強に行きたいですし。それが200~300軒なのか、それ以上かもしれません。
――― 例えば、都内で好きな鮨屋はどちらでしょうか?
新橋にある『新ばし しみづ』というお店ですね。あとは『日本橋蛎殻町すぎた』ですとか、白金の『鮨いまむら』というお店が好きです。
――― それぞれどういった部分を好まれているのでしょうか?
まず、『新ばし しみず』は、いまどきにしては珍しい、昭和の時代の古き良き鮨屋の空気感がすごく好きですね。いま風の小洒落た鮨屋とは一線を画していて。私が昭和に生まれ育ったこともありますが、自身の店で古き良き時代の空気感を出せるセンスは、すごくいいなと思っています。そして、ご主人の清水さんの、世の中の風潮に流されず、迎合しない人柄は、男だったら憧れる方が多いと思います。鮨に関しては、酢や塩などがしっかりとした味づくりが特徴で、いつも勉強になります。
『日本橋蛎殻町 すぎた』は、やはりご主人の杉田さんの人柄ですよね。万人に受ける人柄といいますか。私は杉田さんの店が、まだそこまで繁盛していなかったときからの付き合いですが、そのときから彼の作るお鮨は好きでした。最近では割としっかりとした味づくりになってきましたけども、当時からネタとシャリのバランスが素晴らしいですね。
『鮨 いまむら』は、ご主人の今村さんが和食の経験があるので、特に和食のエッセンスを取り入れたつまみなどに、センスを感じています。伝統的な江戸前鮨を出す鮨屋として、その領分を越えないけれども、鮨屋だけで修業してきた人間には出すことができない、ひと味違ったつまみが好きですね。お鮨も味がしっかりとしていて好きです。これら3店舗のご主人とは、皆、仲間として、個人的にも親しくさせていただいています。
――― これらの鮨屋で共通しているところはありますか?
さまざまな鮨屋がある中で、皆それぞれの鮨屋なりの理想というものを持っていてると思いますが、その理想が例えば、いまの時代はトリュフとかキャビアとか、そういった食材を使うお店もあります。ただ、いまお伝えしたお店は皆、江戸前鮨を出す鮨屋として、守らなければならない領分を越えない店づくりをしていると思います。私は、お客さんに喜んでもらえればなんでもやってしまうスタイルの鮨屋だと、だらしさなさやかっこ悪さを感じてしまうんです。それは僕らの仲間もいつも感じていて、鮨屋として、ここから以上ははみ出してはいけないという部分を皆分かっているので、その辺の感覚が合うんですよね。だから一緒に話していても楽しいですし、目指しているところや意図しているところに、味づくりも含めて共感できます。
――― 地方で好きな鮨屋はどこですか?
福岡なんか行くと必ず寄るのは、『吉冨寿し(よしとみずし)』という鮨屋ですね。ここは江戸前と九州流の融合みたいな店で、けっこう古くからある鮨屋なんです。もともとご主人が茶懐石をやってらっしゃった方で、お鮨の味もそうですが、それこそ空気感とかご主人の人柄が前面に出ている鮨屋です。九州に行くと必ずそのご主人に会いに行ってますね。あとは、人気店ですが『近松』という鮨屋です。ここは杉田さんのお店みたいにバランスが素晴らしいお鮨屋さんです。あとは、この前行った『菊鮨』という鮨屋も良かったです。福岡はレベルの高い店が他に何軒もありますね。僕の弟子も熊本で鮨屋をやっているんですけど、その彼なんかも福岡の有名な鮨職人の方々とお付き合いをさせてもらっていて、いろいろと刺激をもらっているみたいですね。あとは佐賀県の唐津の方にある『銀すし』という鮨屋でしょうか。最近あまり行くことができていないですが、ご主人は僕と同じ歳で、彼の握る鮨も美味しいと思います。
――― 地方の鮨屋は他にもあると思いますが、なぜ九州が多いのでしょうか?
九州の方には頑張っている江戸前の鮨屋が多いからです。かつ、九州は魚の宝庫で、そのレベルも高いですよね。築地に入ってくる魚で九州のものも多いですし。あとは、私自身が江戸前鮨を握っているので、勉強する際に江戸前スタイルの店を選ぶことが多くなるためです。北海道なんかも魚介類は豊富ですが、北海道の場合はある意味獲れる魚が決まってきてしまいますよね。近年はイワシやサンマなどは獲れますけど、コハダやアジが取れるわけではないですし。貝類が豊富とかエビやカニもいろいろ豊富なんですけど、ちょっとそれは江戸前とは方向性が別なので。そういった部分で、地方だと九州が多くなっています。
シンプルな中に新しさを表現した、伝統的な江戸前鮨の伝承
――― 現在はどのような店づくりを心がけていますか?
最近考えているのが「温度」ですね。魚の温度というのは、同じ魚であっても、食べる温度によって随分と味わいが違います。マグロとか白身とか、そういう魚は冷たすぎると味がでない。一方で光り物を常温に持っていくと臭みが出てきてしまう。やっぱり鮨のネタは適温があると思うんですね。魚を切ってからしばらく常温に置いておくとか、臭みが出てしまうものは、提供前までできるだけ冷蔵庫に入れていて、冷たいまま握るとか、ものによってはちょっと温めたり、炙ったりするものもあります。ひとつのネタがお客さんの口に入るまでに、その美味しさを最大限に引き出すことができるかが重要だと思います。
――― お店のメニューは、どのようなタイミングで改善されているのですか?
疑問を感じたときですね。日々営業するなかで「あれっ?」っていう自分の中で感じる疑問です。例えば、それまでは一番いいと思い作ってお出ししていたものが、他の鮨屋に食べに行ったときだったり、うちの店のものを食べたりしたときに、「もっと変えられるのかな?」という疑問を感じることがあるんです。これはインスピレーションというか感覚でしかないですが。この疑問というものを常に持ち続けられるようにしていかないと、気づくところも気づけないので、そこはニュートラルにしておきたいですね。「こうじゃなきゃダメ」と決めつけてしまうのは非常に危険なことだと思うので。
――― 大将が厳選した魚を使うなかで、特にこれをお客様に味わっていただきたいという、つまみや鮨はありますか?
つまみで言えば、いまだったら(2017年1月の取材時)、火を入れたシラウオやノレソレ(アナゴの稚魚)、もうちょっとしたら子持ちのヤリイカだったり、もうじきホタルイカもお出しします。
つまみではできる限り季節感を出していますね。握りに関しては、光り物がアジが入ったりサヨリが入ったりと季節によって変わりますが、マグロ、アナゴ、コハダ、イカは通年お出ししています。イカに関しては、季節によってスミイカなのかアオリイカなのか変わりますが。通年入ってくるものでも仲買との付き合いでいいものをまわしてもらっているので、その違いを味わっていただきたいですね。
――― 今後、鮨という文化を世界に発信していくにあたり、大将がお考えになっていることはありますか?
流されないことですね。世界中の宗教、風俗などいろんなものが違う人たちが来たときに、彼らが求めていることに、迎合しすぎないことが良い文化を守っていけるのかなと思います。それは彼らを拒絶するのではなくて、受け入れるけれども、守らなければいけないところは店側がしっかりと守り続け、歩み寄る部分と、そうでない部分を持つことが重要だと思います。歩み寄る部分とは、海外のお客様が利用しやすい環境をつくるということです。例えば英語を話せるスタッフが店にいるですとか、飲み物の英語メニューがあるなどです。あとは、簡単な作法などはお伝えしています。海外のお客様のなかには、刺身を手で食べようとする方もいらっしゃるので、「刺身はお箸を使い、お鮨は手で食べてもいいですよ」とお伝えすることなどが、歩み寄りだと考えています。そうすることで、その海外のお客様は日本の鮨の文化や作法を知っていただくことができると思うので、それはいいと思うんですね。一方で、例えば生の魚を食べられないから、なんでもかんでも炙って出して欲しいなどとなると、生の魚を握らないのは鮨ではないので、ご来店いただくことは難しいですと言うべきです。その辺の線引きを誤ってしまうと、ブレたお店になってしまいますよね。なので、その線引きを明確にしながら、鮨の文化を伝えていくのが、重要だと思います。
〈大将からの一言〉
2003年8月のオープンから14年の月日が経ち、いまでは国内のみならず海外のお客様にもご来店いただいていることに日々感謝しております。今後も、伝統的な江戸前鮨のスタイルは守りつつ、シンプルな中でも違いを感じていただける鮨屋を目指していきます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
※『鮨 真』は予約困難店ですが、ポケットコンシェルジュに会員登録していただくと、様々なレストランの最新情報を受け取ることができるようになります。
【聞き手・文】白石直久
【撮影】キミヒロ
〈『鮨 真』へのアクセス〉
・東京メトロ日比谷線「広尾」駅、3番出口より徒歩15分
・東京メトロ銀座線「表参道」駅、B1出口より徒歩20分
・渋谷駅よりタクシー 10分



Restaurant Data | |
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店名: | 鮨 真(すし しん) |
住所: | 東京都港区西麻布4-18-20 西麻布CO-HOUSE 1F |
営業時間: | [昼] 水・金12:00~14:00 (L.O.13:00) 土・日12:00~14:30 (L.O.13:30) [夜] 火~日18:00~23:00(最終入店21:30まで) |
定休日: | 月曜日 |