2019年11月29日、ポケットコンシェルジュ主催の第3回目となる「プライベートペアリング会」が、東京・銀座にある一つ星の日本料理店『銀座ふじやま』で開催された。アメリカン・エキスプレスの限られたカード会員から抽選で選ばれた方のみが参加できるイベントで、「和久傳」の総料理長を長年務めた店主・藤山貴朗氏(ふじやま たかお)と、ニューヨークで10年間の修業後、『日本料理 龍吟』『サッカパウ』などでキャリアを重ねたソムリエ・梁世柱(ヤンセジュ)氏の初のコラボレーションにも注目が集まった。料理は、旬の松葉蟹をメインにした献立、そしてドリンクはクラシックな銘醸ワインから、梁氏が特注したブレンド紅茶まで幅広く用意され、開始前から参加者の期待が高まった。
※写真左から、「銀座ふじやま」の店主・藤山貴朗氏、ソムリエの梁世柱氏。
〈メニュー〉
- 【先付】こっぺ強めし 慈姑煎餅(くわいせんべい) 揚焼ぎんなん
〈白ワイン〉Gerard Schueller, Riesling Grand Cru “Pfersigberg H” 2001(ジェラール・シュレール、リースリング・グラン・クリュ フェルシックベルク・アッシュ2001) - 【蒸物】半張り白子 岩茸 生姜
〈日本酒〉鳳凰美田(ほうおうびでん)Premium「芳(かんばし)」生酛純米大吟醸 2018 - 【造】寒ぶり 辛味大根
〈赤ワイン〉Domaine Takahiko, Pinot Noir “Nanatsumori” 2015(ドメーヌ・タカヒコ、ピノ・ノワール“ナナツモリ” 2015) - 【椀物】紅葉鯛 小蕪 松葉ゆず うぐいす菜
〈紅茶〉極上ダージリン水出し茶 - 【酢の物】「柿なます」生柿 人参 大根 香茸 白酢 くるみ
〈白ワイン〉Nicolas Joly, Clos de la Coulée de Serrant 2017(ニコラ・ジョリー、クロ・ド・ラ・クレ・ド・セラン 2017) - かにしゃぶ(かにスープ)
〈日本酒〉而今(じこん) 特上雄町 純米大吟醸 - つぶ貝 九条ねぎ
〈白ワイン〉Peter Malberg, Grüner Veltliner “Weitenberg” 2013(ペーター・マルベルク、グリューナー・ヴェルトリーナー“ヴァイテンベルク” 2013) - 焼きかに
〈発泡性ワイン〉Champagne,Marguet Sapience 2009(シャンパーニュ、マルゲ・サピエンス 2009) - 【おしのぎ】ヤーコン麺 スターレッドキャビア
〈碁石茶〉碁石茶(ごいしちゃ)水出し - かにみそ 朝鮮人参唐揚
〈赤ワイン〉Ch.Margaux 1994(シャトー・マルゴー 1994) - 【焚合せ】淀大根 あわび くち子
〈日本酒〉七本鎗(しちほんやり) 山廃純米 琥刻(ここく) 2012 - 【強肴】平貝磯部焼 黒七味 梅醤(うめびしお)
〈赤ワイン〉Giacomo Conterno, Barolo Monfortino 2008(ジャコモ・コンテルノ、バローロ・モンフォルティーノ 2008) - かにぞうすい または かに玉〆丼 香物
- くり茶巾の炙り 抹茶
代白柿 カルヴァトス ゼリー 和紅茶(紅焙)
〈デザートワイン〉San Giusto a Rentennano, Vin San Giusto 2010(サン・ジュスト・ア・レンテンナーノ、ヴィン・サン・ジュスト2010)
ワイン、日本酒、紅茶で広がる、ペアリングの可能性
ー1ー

料理のメインである、京都・間人(たいざ)の松葉蟹を、提供前にお披露目。

こっぺ強めし 慈姑煎餅(くわいせんべい) 揚焼ぎんなん

ジェラール・シュレール、リースリング・グラン・クリュ フェルシックベルク・アッシュ2001
料理が秋を感じさせる一品であることから、秋の香りをワインから感じてもらえるように、ナチュラルなワインの造り手として知られているジェラール・シュレールが手掛けた、2001年ヴィンテージのリースリングをセレクト。ジェラール・シュレールは、ワインを造る際にほとんど酸化防止剤を入れないため、同様に18年経った一般的なリースリングよりも枯れた色合いが特長。旨みが強いため、慈姑煎餅の香ばしさや揚焼ぎんなんの味わいと相性が良く、秋の味覚をより堪能することができる。
ー2ー

半張り白子 岩茸 生姜

鳳凰美田(ほうおうびでん)Premium「芳(かんばし)」生酛純米大吟醸 2018(原料米:藤田農園産 富の香 100%、精米歩合:50%)
若手の女性杜氏が手掛ける、完全オーガニックの酒米を使用した日本酒。「オーガニックの酒米で作ると、味に力があってヘタレない」と語る梁氏。また、生酛造りはクリーミーな質感が特長。合わせる料理もタラの白子のクリーミーな質感が魅力で、この質感同士のハーモニーを感じながら楽しむことができる。
「最近の良い日本酒の傾向は、米をそこまで磨かずに美味しいお酒を造っていることです。これまでは、精米歩合の低さの競い合いのような流れがありました。それが最近では、農業に対する考え方が変わって、もっと米を大切にしようという風潮があります。鳳凰美田もその中の一つで、米の味が生きた日本酒ですね」(梁氏)
ー3ー

寒ぶり 辛味大根

ドメーヌ・タカヒコ、ピノ・ノワール“ナナツモリ” 2015
「王道ばかりだと面白くないので、お造りに対して、あえて赤ワインを選びました。ドメーヌ・タカヒコは、北海道・余市の造り手で、国産ワインの中でもっとも入手困難な部類。日本ではいろいろな場所でワインが造られていますが、ワインの産地としてもっとも大きな可能性を秘めているのは、まちがいなく北海道です。特にピノノワールは素晴らしいものが多い。中でも、この“ナナツモリ”は世界レベルだと思います」(梁氏)。
続けて、北海道産ワインの「淡さが良い」という梁氏。北海道はそこまで気温が上がらず、ブドウの糖度も高くないため、基本的に濃いワインが造れないと言われている。中でもドメーヌ・タカヒコのピノノワールは、酸化防止剤の使用も少なくナチュラルに造られているため、やさしい味わいになり、香りが開きやすい。だからこそ、寒ブリと相性が良く、赤ワインの程よい酸が、寒ブリの脂をリフレッシュしてくれる。
ー4ー

紅葉鯛 小蕪 松葉ゆず うぐいす菜(ペアリングは、「極上ダージリン水出し茶」)
「煎茶や日本酒で合わせても普通に美味しいだけなので、お椀というものに対して脳髄をゆさぶられるような刺激的で面白いペアリングができたらと思って選びました」(梁氏)。茶葉は、紅茶専門店「ウーフ東京店(TEA TRAVELLERS)」に特注し、ダージリンだけでなく、ベルガモットとバラの精油で香りづけをしている。このペアリングでは、お椀に入っている柚子がキープレイヤーとなり、ベルガモットの柑橘と接点ができることでダージリンとつながって、その周りの要素もだんだんと手をつなぎ始め、一体感というよりも“カラフルな味わい”になるのが面白い。
ー5ー

「柿なます」生柿 人参 大根 香茸 白酢 くるみ

ニコラ・ジョリー、クロ・ド・ラ・クレ・ド・セラン 2017
「フランス・ロワールの有名な造り手と畑で、ナチュラル系の中では、もっともよく知られたワインの一つですが、私の中ではいままで美味しいワインという認識はありませんでした。それが2015年あたりを境に、完全に別次元の美味しいワインに仕上がっています。ニコラ・ジョリーの畑は、たくさんの生物が共生関係にあり、自然の調和が保たれているのが特長ですが、畑にみなぎっている力がここまで乗り移るかというぐらい、エネルギッシュなワインです」(梁氏)。
ペアリングで合わせている柿なますは、人参、大根、香茸、くるみの食感や香りと柿の甘みが、白酢和えにすることで、まろやかな味わいでまとまり、このまろやかさがワインと好相性。数種類の食材が一皿に入っていると、ペアリングでフォーカスする味に振り幅があるが、「クロ・ド・ラ・クレ・ド・セラン 2017」には、それらをまるごと抱きかかえるぐらいの力強さがある。
ー6ー

かにしゃぶ(かにスープ)

而今(じこん) 特上雄町 純米大吟醸(原料米:特上雄町、精米歩合:40%)
「カニには、これ以上ない日本酒を用意したいと思っていました」という梁氏がセレクトしたのは、人気銘柄である「而今」の中でもかなりプレミアムな日本酒。原料米である雄町は生産が難しく、特上米に選ばれることが少ない中、奇跡的に特上認定された米のみを使用しており、4合瓶1本で5万円もするという。米が持つポテンシャルが高く、お酒単体でも複雑な味わいと長い余韻が楽しめ、「而今」独特のピチピチと弾けるような酸味が、カニしゃぶと相性抜群。
ー7ー

つぶ貝 九条ねぎ

ペーター・マルベルク、グリューナー・ヴェルトリーナー“ヴァイテンベルク” 2013
ワインを合わせるのが難しいと言われる「ネギ」に着目してセレクト。オーストリアの品種であるグリューナー・ヴェルトリーナーは、ネギと相性が良い数少ないワインの一つ。九条ネギの美味しさを生かしつつ、ツブ貝の風味もしっかりとサポートしている。
ー8ー

焼かに

シャンパーニュ、マルゲ・サピエンス 2009
一般的には乾杯で提供されることが多いシャンパーニュを、食中酒としてセレクトした、マルゲの中でも最高級の一本。普通のシャンパーニュよりも、いきいきとしていて独特の香ばしさがあり、酵母からくるリンゴの蜜ような少し酸化したニュアンスが、炭で焼いたカニと相性が良い。「焼かに」は、初めは足の部分、あとから追加でカニの爪の部分と、贅沢にいただくことができた。
ー9ー

ヤーコン麺 スターレッドキャビア(ペアリングは、「碁石茶(ごいしちゃ)水出し」)
日本の珍茶の一つである「碁石茶」は、酸が強く磯の香りがする独特の味わいのお茶。ペアリングではキャビアに注目し、碁石茶の磯の風味が合わさることで、ほっこりとするようなペアリングが完成。このタイミングでワインや日本酒だけでなくお茶を入れることで、コース全体を通して絶妙な緩急をつけている。
ー10ー

かにみそ 朝鮮人参唐揚

シャトー・マルゴー 1994
「今回のペアリングを考案する際、ここしかないという最高のポイントで五大シャトーを使おうと思っていました」という梁氏。94年のシャトー・マルゴーは、いまが飲み頃で絶妙なタイミングだという。「カニ味噌には熟成したボルドーワインが最高の相性です。マルゴーであれは、ワインの温度も少し冷たいぐらいの方が良いと思います」(梁氏)
ー11ー

淀大根 あわび くち子

七本鎗(しちほんやり) 山廃純米 琥刻(ここく) 2012(原料米:滋賀県産玉栄100%、精米歩合:60%)
「七本鎗 山廃純米 琥刻」は、2012年に瓶詰めされてから、瓶内熟成されたもの。滋味深く、深いコクが特長の熟成酒を、アワビとくち子を一緒に食べたあとに合わせると、コクのハーモニーが楽しめる。「アワビの繊細さを守りつつも、くち子の力強さを受け止められるのは、このようなタイプの日本酒しかないと思います」(梁氏)。
ー12ー

平貝磯部焼 黒七味 梅醤(うめびしお)

ジャコモ・コンテルノ、バローロ・モンフォルティーノ 2008
「世界中に素晴らしいワインがありますが、イタリアのバローロにおいて、最高峰のワインを選ぶのでしたら、間違いなくジャコモ・コンテルノです」(梁氏)。参加者の幾人かから「もっと飲みたい」という声が漏れるほどワイン単体でもすばらしい味わい。さらに、このペアリングのポイントである黒七味や梅醤と合わせると最高のマリアージュに。
ー13ー

かにぞうすい かに玉〆丼 香物
最後の食事にはドリンクを合わせず、料理と向き合う時間に。間人の松葉蟹を使った雑炊かカニ玉丼が選べ、写真のように少量で両方いただくこともできる。カニの旨みとだしの香りが、心とお腹を満たしていく。
ー14ー

くり茶巾の炙り 抹茶

代白柿 カルヴァトス ゼリー 和紅茶(紅焙)

サン・ジュスト・ア・レンテンナーノ、ヴィン・サン・ジュスト2010
2種の甘味のどちらにも合わせているのが、ヴィン・サン・ジュストの中でも最高峰のデザートワイン。「デザートワインは、ある程度何にでも合ってしまいますが、ペアリングのスイートスポットは狭いです」という梁氏。ワインにはとろみがあり糖度も高いため、一見、和の甘味には合わない印象もあるが、栗や柿のやさしい甘みにもうまく調和し、食後の満足感を高めている。


〜イベントを終えて〜
アメリカン・エキスプレスとポケットコンシェルジュがタッグを組み、初の試みとして開催した「プライベートペアリング会」。参加者からは「個人だと、このレベルのワインはなかなか飲めない。プロの目線で新しいワインの飲み方を楽しめるのはすごく良かった」という声もあり、「体験」を重視するアメリカン・エキスプレスならではのイベントだった。
藤山氏の料理は、「和久傳」の流れを汲みながらも、食材の組み合わせや食感のアクセントなど、独自の感性が光る一品も垣間見ることができた。メインである間人の一級品の松葉蟹は記憶に残る美味しさで、しゃぶしゃぶ、焼き、カニ味噌まで堪能できたことが、参加者の満足度をさらに高めていた。
そして、京料理にワインなどを合わせることは難易度が高いと言われている中、それを、お造りに赤ワイン、お椀に紅茶といったように、ワイン、日本酒、お茶を織り交ぜ、緩急をつけながらベストなペアリングを構成した梁氏の技術に脱帽だった。「半張り白子 岩茸 生姜」×「鳳凰美田」などで味わえた質感同士のハーモニーは、梁氏ならではのペアリングではないだろうか。
本会は、10万円強の参加費ではあったが、例えば「ジャコモ・コンテルノ、バローロ・モンフォルティーノ 2008」が仕入れ値で約16万円であること、そして他では味わうことができないペアリングを体験できることなどを考えると、安くさえ感じた。「来年開催されたらすべてのイベントに参加したい」という参加者もおり、次回はどのようなイベントが企画されるのか、今後も注目したい。
【文、撮影(料理等)】白石直久
【写真提供(未開封ボトル)】梁世柱
銀座ふじやま

