日本酒専門店『animism bar 鎮守の森 (アニミズム バー チンジュノモリ) 』の店主・竹口敏樹氏が、さまざまなレストランの料理に日本酒をペアリングしていくコラボレーションイベント。今回のレポートでは、2018年9月末に開催された、フレンチレストラン『釜津田』の釜津田 健シェフとのコラボの様子を紹介。石川県・能登産の食材のほか、炭火焼きや和のエッセンスを加えるなど、新しいフレンチのスタイルを提案する『釜津田』で、普段の営業では提供していないという、前菜からメインまで全て“魚”を使った特別コースにも注目が集まった。
※写真左から、『釜津田』釜津田 健 氏、『animism bar 鎮守の森』竹口敏樹氏

〈メニュー〉
- 目光 一夜干し
【日本酒】辯天(山形県)スパークリング サケ つや姫 - のどぐろ・焼き無花果
【日本酒】奥能登の白菊(石川県)純米吟醸 - 鰯 トマトと茄子のミネラル
【日本酒】仙禽(栃木県)モダン 純米吟醸 亀の尾 - 能登河豚と白子のフリット
【日本酒】菊鷹(愛知県)Hummingbird 純米 無濾過生酒 - 烏賊のカッペリーニ
【日本酒】横山五十(長崎県)純米大吟醸 - 鰻の炭火焼
【日本酒】風が吹く(福島県)山廃純米吟醸生酒 - マチュドニア 季節の青果とシャーベット
【日本酒】華鳩(広島県)さわやか貴醸酒
魚の旨味に調和する、日本酒の酸とミネラル感
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目光 一夜干し
メヒカリを一夜干しにして炭火焼きに。添えているのは、七面鳥の骨でとったスープ。油分があるため胃の中で膜をはり、お酒から体を守ってくれる効果も。

辯天(山形県)スパークリング サケ つや姫
一品目の料理のペアリングで定番となっているスパークリングの日本酒。
「現在、スパークリングの日本酒は幅広い味わいのものが市場に出ています。大まかに製法が3つあり、発酵力を利用して一旦出来上がったお酒を瓶詰めし、そこに新たに酵母や糖を入れて瓶内2次発酵させたタイプ、菌が生きて発酵している状態(もろみの状態)で瓶詰めしたタイプ、そして出来上がった日本酒に炭酸ガスを後から充填するタイプです」(竹口氏)
つや姫というと食用米というイメージが強いが、酒米でなくても日本酒の醸造は可能だ。ただ心白が小さい分、米が割れやすく味が変化しやすいという性質を持つので大変な技術力が必要となる。
「東北地方は気候的に酒米を生産しずらい地域でしたので、このような一般食用米で酒造りを行なう文化が発展しました。ちなみに、つや姫の先祖に『亀の尾』というお米がありますが、こちらも一般食用米です。元を正すと明治初期まで、日本三大米と言われる『亀の尾』『愛国(あいこく)』『神力(しんりき)』しかありませんでした。その他に、野生品種で『雄町』が存在しています。今現在の『ひとめぼれ』『コシヒカリ』『山田錦』などは、これら4つの米の掛け合わせの流れを汲むものです」(竹口氏)
〈ペアリングのポイント〉
「辯天 スパークリング サケ つや姫」は、炭酸ガスを後から充填したタイプ。加熱処理をして酵母菌の動きが止まっているため、味わいの変化がなくさっぱりと飲むことができ、メヒカリの独自の食感や風味の邪魔をしないという視点で選んでいる。
ー2ー

のどぐろ・焼き無花果
700gと大きめのノドグロを炭で焼いたものに、酒粕、煮切り、ワサビなどを合わせたソースを。その上にイチジク、炭の中でローストしたイチジク、マスタードスプラウトをのせている。

奥能登の白菊(石川県)純米吟醸
〈ペアリングのポイント〉
料理の味付けが西京漬けのような和の風味があるため、その風味をコクとして生かすことを考慮して選んだのがこちらの日本酒。「ノドクロの脂身=甘みですので、この脂身と似たような甘みであること、そして、イチジクは噛んだ瞬間にグアバフルーツやパッションフルーツのような風味を感じましたので、含み香としてフルーティーな香りがあるもので選んでいます」(竹口氏)
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鰯 トマトと茄子のミネラル
「野菜のミネラルでイワシを食べる」という発想から生まれた一品。イワシは軽く塩で締め、天火の炭火で、イワシの脂を落とすのではなく上からまわしかけるようなイメージで表面に焼き目をつけた。上には唐辛子のペーストをベースに生姜と長ネギ、万願寺唐辛子を合わせたソースと白板昆布を甘酢で炊いたものをのせている。周りのスープはナスとトマトから抽出したエキスのみを使用し、仕上げにオリーブオイルを。

仙禽(栃木県)モダン 純米吟醸 亀の尾
〈ペアリングのポイント〉
有名な日本酒を選ぶことが少ない竹口氏だが、「料理を試食した時に、考えれば考えるほどこのお酒しかない」と思って選んだという一本。炭火で焼いたイワシの苦味に合うように、苦味を伴うような錯覚を起こす味の硬さがあることが第一条件。残りはトマトやナスのミネラル感を考えたときに、トマトと相性の良いチーズから乳酸を連想し、お酒単体でも爽やかな乳酸やリンゴ酸などの複雑な味わいを感じられることから、こちらの日本酒をセレクト。
「仙禽 モダン 純米吟醸 亀の尾」には、少し丸みのある6角形のグラスを使用。平面部分を口に当てるのか、尖っている部分を口の中心部分に当てるのかで、ナスやトマトのミネラル感の感じ方が変わる。
ー4ー

能登河豚と白子のフリット
能登産のフグの身と白子をフライにし、付け合わせはフルーツトマト、ルッコラ、エシャロットを。タスマニア産のマスタードやシェリービネガーを使ったソースでいただく。

菊鷹(愛知県)Hummingbird 純米 無濾過生酒
〈ペアリングのポイント〉
フリットの油を洗い流すために酸の多いお酒であること、そしてもう一つ注目したのがソースに使用しているシェリービネガー。シェリービネガーは、発酵させる際に蓋を開放して造るが、オーク樽の中に入れて負荷をかけるため、オーク樽の風味が広がりやすいことと、製造段階で周りの自然界の花酵母が入りやすくなることが特徴。そこで今回は花酵母ではないが、花酵母の風味に似ている酒質の日本酒を選んでいる。
ー5ー

烏賊のカッペリーニ
カッペリーニに、イカ、柚子、トマト、万願寺唐辛子、イタリアンパセリなどを細かく刻んだものを合わせた、爽やかな味わいの一皿。

横山五十(長崎県)純米大吟醸
〈ペアリングのポイント〉
カッペリーニが爽やかさを演出しているので、お酒単体でも爽やかな印象を与えるものをセレクト。風味的に日本酒というよりもワインに近く、ニューワールドの硬めのソーヴィニヨン・ブランのような味わい。また、イカを使っているので、軟体類由来のミネラル感を出すために、仕込み水にミネラルを多く含んでおり、アルカリ性寄りの地方という視点でこの日本酒を選んでいる。
ー6ー

鰻の炭火焼
ウナギを開かずに骨だけ抜いて、炭火焼きに。ソースは抜いたウナギの骨からだしを取ったものをベースに、赤ワインと茶色になるまで炒めた玉ネギをを合わせて作っている。

風が吹く(福島県)山廃純米吟醸生酒
〈ペアリングのポイント〉
鰻の身の味わいの繊細さを消さないように、お酒の味わいが主張しすぎるものは避けている。
「鰻を焼いた時の焦げの熱力による苦味がありましたので、この苦味を少しだけ和らげ、苦味を感知しずらくさせるために、舌の先端を冷やしすぎないようやや温かめの常温でお出ししています。苦味には苦味でぶつけて、さらに苦味感知を緩やかにすることを意識しました。それには、お酒単体でもやや苦味っぽさを感じ、鰻の旨味を包み込むような味わいの旨味を伏せ持つ酒質、さらに玉ネギの甘味とコクと相性のいい乳酸も少し感じとれるぐらいの味わいも考慮し、こちらの『風が吹く』を選んでいます」(竹口氏)
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マチュドニア 季節の青果とシャーベット
季節のフルーツをリキュールでマリネし、フロマージュブランのソルベと和梨を凍らせて削ったものを合わせている。

華鳩(広島県)さわやか貴醸酒
貴醸酒とは、通常の日本酒の醸造が米、米麹、水を使って造るところを、水の代わりに違うタンクで仕込んだ日本酒を使って造るお酒のこと。本来は春先から3〜5年と熟成をかけて、樽の香りや色が移しているものが多いが、「華鳩 さわやか貴醸酒」は熟成はせずに、できたてをそのまま瓶詰めしている。
〈ペアリングのポイント〉
味わいの変化や分析というよりも、「マチュドニア 季節の青果とシャーベット」に「華鳩 さわやか貴醸酒」をソースとしてかけたら面白い味になるのではないか、という視点で選んだ一本。
〜イベントを終えて〜
料理と日本酒をいただくだけでなく、さまざまな知識を得ることができるのも、本イベントの楽しみの一つ。今回は竹口氏の初めの挨拶で「ペアリングとマリアージュの違い」についてお話いただいた。竹口氏の考えるペアリングとは、「料理を食べ日本酒を口に含んだ際に同じ方向を向くもので、足し算、引き算、掛け算のすべての総称」を指す。一方でマリアージュとは、「料理と日本酒を口に含んだ時に、すべての味わいを解体し、飲み込む瞬間に、再構築として別の次元の味わいを感じるもの」だという。また、4品目の「能登河豚と白子のフリット」に合わせている「菊鷹 Hummingbird 純米 無濾過生酒」は、ソースに使用するシェリービネガーの製造過程から、花酵母をイメージさせる日本酒を選んでいるところが、竹口氏らしいペアリングの発想で面白かった。
そして今回、前菜からメインまで、能登産を中心にすべて魚を使った釜津田シェフの特別コースは、それぞれの素材の生かし方が興味深かった。特に印象的だったのが「鰯 トマトと茄子のミネラル」だ。イワシの周りの透き通ったスープは、見た目からは想像できないが、トマトとナスのエキスがしっかりと凝縮されていて、イワシの旨味との調和が素晴らしかった。また、いち消費者として能登食材の魅力に気づくことができ、本イベントが地域活性化に繋がるような充実感を得ることができた。
食材や日本酒には、その時期ならではの楽しみ方がある。ぜひ、季節ごとにそれぞれのお店に足を運んでいただきたい
【取材・文・撮影】白石直久
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