「いまある味わいの解体と新たな味わいによる世界の再構築」をテーマに、さまざまなレストランの料理と日本酒のペアリングを試みるイベントを定期的に開催している『鎮守の森』の店主・竹口敏樹氏。今回は、予約困難の甲殻類専門店『うぶか』の店主・加藤邦彦氏との初のコラボレーションが実現した。甲殻類独特の旨味に対して、どのような日本酒を合わせていくのか。この日のために用意された10品10ペアリングを紹介。
〈献立〉
- 【先付】縞海老 雲丹 海藻ジュレ 青柚子
【日本酒】辯天(山形県)スパークリング・サケ つや姫 29BY - 【冷物】毛蟹の冷製クリームコロッケ
【日本酒】ふた穂(奈良県)雄町 山廃純米吟醸 無濾過生原酒 27BY - 【椀物】渡り蟹 海ぶどう 焼豆腐 かぼす
【日本酒】若乃井(山形県)特別純米「夏宝(かほう)」29BY - 【向付】車海老 鱧 こうじ塩
【日本酒】安東水軍(青森県)純米大吟醸 生酒 29BY - 【強肴】ずわい蟹 唐墨
【日本酒】羽前白梅(山形県)山廃純米酒 27BY - 【焼物】伊勢海老真丈
【日本酒】康成(大分県)純米無濾過生原酒 29BY - 【温物】米卵 甲殻類コンソメ餡かけ
【日本酒】天弓(山形県)山廃純米吟醸 喜雨 29BY - 【揚物】車海老味噌フライ 実山椒のタルタル
【日本酒】杣(そま)の天狗(滋賀県)純米吟醸生原酒 29BY - 【飯物】花咲蟹 ズッキーニ
【赤出汁】若芽 葱 豆腐 油揚げ 山椒
【香物】大根 胡瓜
【日本酒】白隠正宗(静岡県)誉富士純米酒 29BY - 【水物】日本酒ゼリー 桃のソース
【日本酒】日下無双(山口県)純米酒60% 29BY
甲殻類の旨味を引き出し、「軽さ」を表現した料理に、温度帯の異なる日本酒が絶妙に組み合わさる
ー1ー

1.縞海老 雲丹 海藻ジュレ 青柚子
料理解説
「もともと海にある素材たちを、海に戻してあげる」をコンセプトに生み出された一品。底に敷いた海藻のジュレは、羅臼産の昆布を1日水出しして海塩を加えている。その上に、縞海老と雲丹をのせ「海」を表現。

1.辯天(山形県)スパークリング・サケ つや姫 29BY
〈ペアリングのポイント〉
海藻の香りと昆布のグルタミン酸を考慮し、それらの味わいをゆっくりと伸ばすガス感と穀物本来の旨味がある日本酒をセレクト。
ー2ー

2.毛蟹の冷製クリームコロッケ
料理解説
「夏場でもクリームコロッケが食べたいと考えたときに、アツアツなものはちょっと夏に向かないので冷製にしました」と加藤氏。中は冷たいクリームコロッケだが、外の衣はカリカリとした食感が特徴。レタスの千切りの上にクリームコロッケをのせて「軽さ」を出し、その上にほぐした毛蟹の身とカニ味噌を。記憶に残り続ける美味しさ。

2.ふた穂(奈良県)雄町 山廃純米吟醸 無濾過生原酒 27BY

「岡山県高島産の雄町のみを使用しています。一番、野生種に近い雄町です」(竹口氏)
〈ペアリングのポイント〉
冷たいクリームコロッケに合わせるため、本来は燗酒に向く日本酒を、常温に置いて味を開かせ冷蔵庫で冷やして提供。
ー3ー

3.渡り蟹 海ぶどう 焼豆腐 かぼす
料理解説
羅臼産の昆布とマグロ節の一番だしを使い、海ぶどうの塩味を考慮してあたりをつけた、すまし仕立てのお椀。「カツオ節だとカツオが主張して海老や蟹とケンカしてしまうので、それらと相性が良いマグロ節にしました」と加藤氏。マグロ節を使うことで、渡り蟹の味わいを引き立て、良い相乗効果を生んでいる。

3.若乃井(山形県)特別純米「夏宝(かほう)」29BY
燗酒にしたものに、もともとの日本酒を加える「戻し燗」で提供。60℃の燗酒を40℃まで冷まし、仕上げに常温の日本酒を加えることで、香りと苦味を戻している。
〈ペアリングのポイント〉
蟹の濃厚な旨味に焦点をあて、カボスの香りにも着目。「甲殻類に対抗するミネラル質とグレープフルーツのような横に広がるクエン酸を感じたので、こちらの日本酒にしました」(竹口氏)。また、人間の味覚は湿度が76〜80%で渋みを感じ、50〜60%甘みを感じるため、今回は前者であることも、こちらの日本酒を選んだ理由の一つ。
ー4ー

4.車海老 鱧 こうじ塩
料理解説
写真手前は、湯引きして軽く炙った鱧、奥は車海老のお造り。日本酒との相性を考えて選んだという、旨味のある「こうじ塩」をつけていただく。

4.安東水軍(青森県)純米大吟醸 生酒 29BY
〈ペアリングのポイント〉
魚の旨味を壊さないことと「こうじ塩」との相性を考え、余計な酒造りをしていないクリアな日本酒をセレクト。五角形のグラスで飲む際、平面で飲むと液体が口内の横側に流れるため、魚の旨味をゆっくりと味わいながら日本酒が楽しめる。一方、先の尖った部分で飲むと、魚を味わった後に、その味わいを消して「日本酒を飲んだ」という満足感が得られる。
ー5ー

5.ずわい蟹 唐墨
料理解説
毎年11月ぐらいから仕込んでいるという自家製の唐墨を、ほぐしたズワイ蟹の身と絡め、さらにスライスしたものをのせた、日本酒がすすむ一品。

5.羽前白梅(山形県)山廃純米酒 27BY
元国税局の鑑定官であった上原浩先生(故)が、東北の日本酒の中でもベタ褒めしたといわれる一本。醸造アルコールを添加せず、低温で丁寧に醸されている。
〈ペアリングのポイント〉
蟹の風味、コクと余韻、贅沢な唐墨の味わいに合わせ、米の旨味のある日本酒をアツアツの燗酒で提供。お燗でちびちびと流し続けていくように楽しんでもらう。
ー6ー

6.伊勢海老真丈
料理解説
真丈にすることで、伊勢海老の濃厚な味わいが楽しめる一品に。だしは、伊勢海老の頭を焼き、日本酒を入れて1時間ほど煮出したもの。

6.康成(大分県)純米無濾過生原酒 29BY
〈ペアリングのポイント〉
伊勢海老のだしに合わせ、旨味系の日本酒を常温で提供。「上品な風味、口に含んだ時に感じるクッション性、その中に入り込む麹の風味と米の旨味が、伊勢海老のだしと相性が良いと考えて選びました」(竹口氏)
ー7ー

7.米卵 甲殻類コンソメ餡かけ
料理解説
米だけを肥料にした鶏卵の温度卵に、その日に店で使っているすべての海老と蟹の甲羅や頭を加えて作るコンソメスープを餡にしてかけた、温かい一皿。

7.天弓(山形県)山廃純米吟醸 喜雨 29BY
〈ペアリングのポイント〉
「米卵の美味しさを伸ばしながら邪魔をしないお酒であること、そして、コンソメ餡が穀物に由来している方向性を感じたため、こちらを選びました」(竹口氏)
ー8ー

8.車海老味噌フライ 実山椒のタルタル
料理解説
活きの車海老を使ったエビフライ。車海老の頭から味噌を取り出し、日本酒を入れて作った和風のアメリケースを、エビフライの頭の部分に射込んでいる。車海老の殻をカリカリに焼いて細かく砕いて作るエビ塩や、実山椒を醤油で炊き、自家製のマヨネーズを合わせたタルタルソースを好みで付けていただく。

8.杣の天狗(滋賀県)純米吟醸生原酒 29BY
〈ペアリングのポイント〉
エビフライ、タルタルソース、レモンに対して、油を切る適度な酸、乳酸、クエン酸がバランスよくあらわれた日本酒をセレクト。また、海老の部位で味が違うため、頭の蟹味噌の部分はお燗(55℃)、中の身の部分は常温、尾の部分は冷酒(4℃)と、同じ日本酒を3つの温度帯で提供。
ー9ー

9.花咲蟹 ズッキーニ

(赤出汁)若芽 葱 豆腐 油揚げ 山椒
(香物)大根 胡瓜
料理解説
その日に入荷した蟹に季節の野菜を合わせた「うぶか」定番の土鍋ご飯。この日は花咲蟹とズッキーニ。花咲蟹は茹でて身をすべて取り出し、その花咲蟹の殻でとっただしでご飯を炊く。炊き上がりに蟹の身をのせ、プリプリとした食感を楽しんでもらう。

9.白隠正宗(静岡県)誉富士純米酒 29BY
〈ペアリングのポイント〉
「白隠正宗」で60℃と40℃の2種の燗酒を作り、それらをブレンドして提供。五角形のグラスを使用し、ご飯と合わせるときは平面で、赤だしと合わせるときは先の尖った部分で飲むことで、旨味だけを感じることができる。
ー10ー

10.日本酒ゼリー 桃のソース
料理解説
ペアリングする「日下無双」を使った日本酒ゼリー。添えているヨーグルト酒の泡とも好相性。日本酒ゼリーとヨーグルト酒の泡は、どちらも加熱せずにアルコールを残して使用している大人のデザート。

10.日下無双(山口県)純米酒60% 29BY
〈ペアリングのポイント〉
日本酒ゼリーに「日下無双」を使用していることと、ヨーグルト酒の泡との相性も考えてセレクト。そのほか、ヨーグルト酒で知られる「信乃大地」などと合わせても良い。
〜イベントを終えて〜
甲殻類の美味しさが最大限に引き出された料理と日本酒のペアリングが楽しめる素晴らしいイベントでした。特に、ペアリングの手法が面白く、燗酒にしたものに、もともとの日本酒を加える「戻し燗」や、エビフライの部位ごとに3つの温度帯で提供したり、60℃と40℃の燗酒をブレンドしたりと、竹口さんの「技」を随所に垣間見ることができました。
『鎮守の森』と人気レストランのコラボレーションイベントは、ポケットコンシェルジュが目指す「最高の食体験」の一つであると改めて感じました。今後も継続して開催していただくことで、料理と日本酒の可能性を、より多くの方々に体験していただけたら幸いです。
【企画・取材・執筆】白石直久
animism bar 鎮守の森 (アニミズム バー チンジュノモリ)

うぶか
