日本酒の未知なる可能性を追求し、和洋中のさまざまなレストランとのコラボレーションを実現してきた『鎮守の森 Animism Bar』店主・竹口敏樹氏。人気店ゆえポケットコンシェルジュ限定で予約が可能な同店と、2018年8月18日、初めての共演を果たしたのは、和食の名店『青山えさき』の遺伝子を受け継ぐ『日本料理 若林』店主・若林浩次氏。素材そのものを生かしながら独自のエッセンスを加えた和食コースと、1品1品に個性溢れる日本酒を合わせた7杯のペアリング。その全貌をご紹介しよう。
〈献立〉
- 【料理】愛知県平貝と桃のサラダ 山口県白イカ カボチャ、ズッキーニ
【日本酒】誠鏡(広島県)純米スパークリング - 【料理】本日の天然のお造り
【日本酒】あづまみね(岩手県) 純米吟醸 無濾過生原酒 - 【料理】和歌山県紀の川鮎のすり流し 鮎の身の蓼揚げ
【日本酒】扶桑鶴(島根県)特別純米 無ろ過生原酒 - 【料理】三重県イサキの塩焼き ニンジンのコンフィー コリンキー、オクラ、モロッコインゲン 梅味噌豆乳ソースと共に
【日本酒】黄金澤(宮城県) 山廃純米 うすにごり生原酒 - 【料理】北海道きんきの煮付け
【日本酒】米宗(愛知県)山廃純米吟醸 無濾過生原酒 - 【料理】石川産無農薬コシヒカリ とうもろこし炊き込みご飯 秋田天然醸造のお味噌汁 トマト、黒胡麻きな粉
【日本酒】中島屋(山口県)純米にごり - 【料理】焦がし麦のアイスと花豆の蜜煮 ルイボスティーの寒天 有機黒豆ヤーコン茶
【日本酒】木戸泉(千葉県)純米AFS生原酒
夏の疲れを癒す温かなもてなし料理と、個性派揃いの日本酒ペアリング
ー1ー

1.愛知県平貝と桃のサラダ 山口県白イカ カボチャ、ズッキーニ
料理解説
旬の桃と魚介を合わせ、季節感溢れる冷前菜に。白イカはお造りとフリットに仕立て、平貝はさっと炙り、野菜はだしを含ませる、といった具合にさまざまな調理法を一皿に盛り込むことで、食感や温度に変化を与えている。

1.誠鏡(広島県)純米スパークリング
〈ペアリングのポイント〉
最初の1杯であることと、フルーティーな桃の風味との調和を考え、リンゴ酸の強いお酒を造る酒蔵の発泡酒をチョイス。やさしい泡が、揚げ物の油をすっきりと流してくれる。
ー2ー

2.本日の天然のお造り
料理解説
脂ののった千葉県産のカンパチ(写真左)と、身がしまり心地よい歯ごたえと繊細な旨味を楽しめる長崎県産ハタ(写真右)のお造り。キリっとしながらもお米のコクや旨みをしっかり味わえる「あづまみね」とともに。

2.あづまみね(岩手県) 純米吟醸 無濾過生原酒
〈ペアリングのポイント〉
キンキンに冷えたままではなく、常温に置いてからビンを勢いよくふるという荒療治を行なうことで、刺身の温度に寄り添わせつつ、丸みを帯びた味わいに。
ー3ー

3.和歌山県紀の川鮎のすり流し 鮎の身の蓼揚げ
料理解説
焼いたアユを骨ごと粉砕し、タイの骨からとるだしと合わせたすり流しは、旨みの凝縮体。口に入れた瞬間、アユのほろ苦い風味が駆け巡る。セモリナ粉とタデの葉の衣で揚げた身と、梅肉をしのばせ、味わいのアクセントに。

3.扶桑鶴(島根県)特別純米 無ろ過生原酒
〈ペアリングのポイント〉
清流日本一と言われ、アユの産地でもある高津川付近の伏流水を使う酒蔵の酒は、アユとの相性も抜群。ユニークな形のグラスは、角で飲むと酸を感じやすく、平面ではまろやかに感じられるという楽しみ方も提案。
ー4ー

4.三重県イサキの塩焼き ニンジンのコンフィー コリンキー、オクラ、モロッコインゲン 梅味噌豆乳ソースと共に
料理解説
シンプルに塩焼きにしたイサキと、コンフィにして甘みを引き出したニンジンなどの野菜に合わせるのは、梅と味噌、大葉、クルミなどを合わせた梅味噌豆乳ソース。ナッティなコクやほのかな梅の酸味が深みのある味わい。

4.黄金澤(宮城県) 山廃純米 うすにごり生原酒
〈ペアリングのポイント〉
豆乳を使ったソースに焦点を当て、乳酸のニュアンスが生きた山廃仕込みのお酒を選択。背が高く口径の狭いグラスは口に入るお酒の量も少ないため、野菜の繊細な味わいも生かす。
ー5ー

5.北海道きんきの煮付け
料理解説
『青山えさき』の味を受け継ぎ、若林氏がさらに進化させたスペシャリテ。ぷるんぷるんの脂とふわふわの身に少し甘めの煮汁が絡み、無心で食べ続けてしまう美味しさ。旨みが溶け込んだ煮汁ごと味わいたい。

5.米宗(愛知県)山廃純米吟醸 無濾過生原酒
〈ペアリングのポイント〉
しっかりとした味付けの煮魚には、フルボディの日本酒で、かつキンキの脂をスッと断ち切るような酸をもった『米宗』を。燗冷ましにしてから高い位置から注ぎ、酸を立たせる。
ー6ー

6.石川産無農薬コシヒカリ とうもろこし炊き込みご飯 秋田天然醸造のお味噌汁 トマト、黒胡麻きな粉
料理解説
北海道産トウモロコシ「みらい」の芯と一緒に炊き上げたご飯は、焼きもろこしのようなバターと醬油のこうばしい香り。秋田の天然醸造の味噌を使い、トマトと黒ゴマきな粉を加えた味噌汁も主役級の美味しさ。

6.中島屋(山口県)純米にごり
〈ペアリングのポイント〉
テーマは“大人の甘酒”。味噌汁の濃厚な麹の香りや黒ゴマの風味に、乳酸多めのにごり酒をぶつけるペアリング。70℃まで加熱してから冷まし、乳酸をきれいに残すようにグラスに回しながら注ぐ。
ー7ー

7.焦がし麦のアイスと花豆の蜜煮 ルイボスティーの寒天 有機黒豆ヤーコン茶
料理解説
香ばしい焦がし麦のアイスクリームや、さっぱりとしたルイボスティーの寒天に、20年熟成の黒みりんをかけて芳醇な香りとコク、深い余韻をプラス。食後は、ミントを加えた黒豆ヤーコン茶ですっきりと。

7.木戸泉(千葉県)純米AFS生原酒
〈ペアリングのポイント〉
55℃で仕込む独自の「高温仕込み」で造られた『AFS(アフス)』は、白ワインのようにフルーティーで、食前・食後酒にも好適。ほどよい甘味と酸味が、アイスクリームのミルキー感や黒みりんの熟成香と絶妙に合う。
〜イベントを終えて〜
これまでもさまざまな業種とのコラボレーションを開催してきた竹口氏。「事前の打ち合わせで献立を見た際に、一つひとつの素材の生かし方が面白いと感じ、ペアリングの幅も広がりそうだと感じました。一番難しかったのは、デザートです。日本酒のペアリングでは、デザートには貴醸酒というのが定石なのですが、今回は焦がし麦の風味が消えてしまうと感じ、甘味と酸味のバランスがよい「アフス」と合わせました」(竹口氏)。
一方、ゲストを見送った後、「今日は緊張しました~」とほっと安堵の表情を浮かべたのは、若林氏。爽やかな桃と魚介の前菜に始まり、梅の爽やかな風味をしのばせたアユのすり流しや、見た目も見事なキンキの煮付け、客席がこうばしい香りに包まれたトウモロコシの炊き込みご飯など、季節感とオリジナリティ溢れる内容でゲストを楽しませてくれた。「こうしたイベントは初めての取り組みだったのですが、とても勉強になりました。私は日頃から身近なところに料理のヒントを求めることも多いので、今回の経験もよい刺激をたくさんいただきました」(若林氏)。
【取材・執筆】笹木理恵
animism bar 鎮守の森 (アニミズム バー チンジュノモリ)

日本料理 若林
